母体と赤ちゃんの両方のリスクについて考えてみましょう。まず、母体ですが、30代を過ぎてから妊娠率が下がるということは、元気な赤ちゃんを産める身体から遠ざかっていくということになります。同時に、赤ちゃんにも生まれようとする身体面での力が低下するリスクがあります。
お産はお母さんと赤ちゃんの共同作業です。妊娠を望む人、また妊娠がわかったら、まずお母さんが元気に産める身体づくりをする必要があります。
お母さんの身体づくりの頑張りがおなかの赤ちゃんにもちゃんと伝わることは、自然分娩を長年やってきた助産師さんもおっしゃっていましたし、このことが赤ちゃんの健康の基礎ともなるものです。どうやって健康をキープしていくかは、後のページで詳しく紹介していきます。このページでは概要をしっかり掴んでおきましょう。
■妊娠率の低下
妊娠率は30代から下がりはじめ、37~38歳からは加速度的に低下してきます。とはいっても、いわゆる“高齢出産”とされる35歳から急に変わるのものではありませんので、35歳前に出産を終えておくに越したことはありません。
また、卵子は精子のように毎日作られるものではなく、また、毎月新しく作られるものでもありません。女の赤ちゃんには生まれたときから卵巣内に約400個の胞子があり、10歳頃から毎月1個成熟して受精しなかったものが排卵されます。ですから、卵子は年齢とともにだんだん古くなりますし、母体に有害物質が入り込んで卵子に影響をおよぼしたりする前に出産をしておいたほうがいいということになります。
■流産率の増加
母体の年齢に関わらず、全妊娠のおよそ15%が流産します。その原因は残念ながら、全て解明できるとは限りませんが、流産した胎児を調べてみると、染色体異常がしばしば見られるのも事実です。そのため、流産の原因の多くは胎芽(胎児になる前の芽のような状態で胎齢が8週未満の赤ちゃんのこと。妊娠週では10週未満に相当)・胎児の染色体異常が原因ではないかと考えられています。しかし、高齢であるからといって常に染色体に異常を持つ卵子を排卵するわけではありませんし、健康な卵子を排卵することも多くあります。流産の原因が解明されていない以上、高齢ゆえの流産へのリスクで不安になりすぎる必要がありません。
■ダウン症の増加
高齢出産で生まれてくる子供の先天性異常でもとくに多いとされるのがダウン症候群ですが、35歳以下の母親でも1000人弱に1人の割合で生まれてきます。ダウン症候群とは、本来46本ある染色体のうち、21番染色体が生まれつき1本多く47本の染色体を持って生まれてくることが原因となって起こる、知的発達の遅れや、心疾患などの合併症を伴うこともある、先天性の症候群です。ダウン症の子供たちは似たような顔立ちをしていますが、生後数ヶ月してから症状が出る子供もいます。しかし、妊娠14~16週目の染色体検査によりダウン症候群かどうかがわかります。
ダウン症候群の子供たちの身体的特徴は、頭を上から見ると縦の長さが標準に比べて短い、顔だちにあまり起伏が無い、目と目の間の鼻部分が低い、眼が切れ上がっている、まぶたが深い二重、耳の上の方が内側に折れ曲がっている、耳の形が丸い、首の周りの肉付きがよい、指が短い、親指と人さし指のあいだが普通より少し開いている、小指の間接が1つ足りない、手のひらに猿線が見られる、指の文様が弓状である、筋肉の緊張が低下している、知的発達が遅れるなどです。しかし個人差があり、一見しただけではわからない子供もたくさんいます。全体としては成長がゆっくりで、平均すると2歳くらいでようやく歩けるようになり、言葉を話しはじめますが、ゆっくりであっても知能はちゃんと成長していきます。ダウン症の40%に先天性心疾患を合併すると言われていますが、最近は手術技術の発達により、回復する子供が多いのも事実です。
母親の年齢に影響する発生頻度は次のとおりです。
15~29歳 1人:1500人
30~34歳 1人:800人
35~39歳 1人:270人
40~44歳 1人:100人
45歳以上 1人:50人
また、高齢出産により二人目の子供もダウン症の子供が生まれる再発のリスクの確率は1%と言われています。さらに、過剰な染色体は父親由来のこともあり、母親由来と父親由来の比は4:1といわれています。
胎児がダウン症候群かどうかは検査によって早いうちに判明させることができます。一般に、妊娠14~16週ごろに行う「羊水染色体検査」で、結果がでるまでに2~3週間かかりますが、産婦人科病院で簡単に検査できます。しかし、ダウン症候群検査のそのもののリスクも問われており、検査による流産の危険性がわずかながらあるといわれています。また、ダウン症候群であることがわかった場合の中絶につながりやすいことが倫理問題となり、盛んに議論されています。ダウン症候群に関しては、大変難しい問題であることは事実です。
ダウン症ではないのですが、高齢出産の知人が無脳症の赤ちゃんを授かりました。さしたる病歴もなかったので高齢ゆえの障害なのか理由は定かではありません。産科医は中絶をすすめました。「死産か流産する可能性が高く、自然分娩では母体にも危険がある。たとえ帝王切開で生まれてきてもすぐに死んでしまう」と。
しかし、知人はどうしても納得がいかず、たくさんの産科医院を訪れ、意見を求めました。どの産科医も同じ意見でした。知人はそれでもと出産を決意、しかし、どこの産科医でも出産さえも拒否されてしまいました。「分娩の際の母体のリスクが高すぎる」と。たった1軒、出産を受け入れてくれた産院がありました。ここの院長先生は「産みましょう。その子の命を最後まで見届けてあげましょう。あなたの覚悟を私も一緒に受けます」と言ったそうです。知人は早産でしたが赤ちゃんを自然分娩で出産、赤ちゃんはこの世に生まれて1時間後に静かに息をひきとったそうです。無脳症の赤ちゃんは脳がないため、自力呼吸ができません。母体内にいる間はへその緒から酸素や栄養分が届くので生きられますが、母体から離れた瞬間から死へ向かいます。その子は生まれて約40分間は母体からのへその緒で生きていました。その間、母親の胸に抱かれ、父親やおじいちゃんやおばあちゃんたちに「可愛い、可愛い」と愛されました。そして、短い一生を終えたそうです。障害があるから、寿命が短いから産まないという選択について、考えさせられます。
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